富山県射水市のフィッシャーマンズワーフとして親しまれている「新湊きっときと市場」に、2021年夏、東京・南青山のヴィーガンカフェ「8ablish(エイタブリッシュ)」がオープンしました。

魚介がメインの施設に、ヴィーガンカフェ⁉︎と意外に思うかもしれません。ヴィーガンというと植物性以外は絶対ダメと堅苦しく思われがちですが、最近では、多様な食の選択肢として、日々の食事のレパートリーの一つとしてカジュアルに取り入れられています。エイタブリッシュ富山でも、ヴィーガンメニューだけでなく、エイタブリッシュがセレクトした日用品、地元で採れた有機野菜、ローカルフードとして愛されてきた乳製品、魚介の加工品がマルシェのように並びます。

その理由を代表の川村明子さんはこう語ります。「ヴィーガンカフェではありますが、地元の郷愁感みたいなものも大事にしています。この土地で生まれ育った人たちが、昔の記憶や思い出として、懐かしかったり、幼少期に大好だったもの、地元に根付いた食材も扱いたいと思っています。9割以上はオーガニックやヴィーガン製品ですが、それ以外はダメということではなく、地元の食文化とも共存していくスタンスです」

奥右から時計回りに、レモン、バニラ、ストロベリー、スイカ(夏季限定メニュー)、カカオ、バジル

そんなエイタブリッシュ富山店の看板メニューとして、近隣の感度の高い人たちの間で早くも話題を呼んでいるのが、ヴィーガンアイスクリーム。

「県内初のヴィーガンアイスクリーム屋でファクトリー機能もあり、全てここで製造しています。アイスクリームは子どもから大人まで、おじいちゃんおばあちゃんまでみんなが大好きで、誰もが食べられ、病気を患っている人でも安心してヴィーガンを気軽に体験してもらえるユニバーサルなメニューです」

乳製品不使用で有機豆乳ベースに厳選した自然素材でつくり上げた自家製アイスクリーム。ここから東京のお店にも出荷している。

アイスクリームの定番バニラ、カカオ、ストロベリーに、大人好みの爽やかなバジル、レモン、夏はスイカ、秋はサツマイモといった季節の味をラインナップ。特に季節のフレーバーには、地元富山で栽培されたオーガニックの野菜や果物を使用しているのですが、そこにも作り手の思いが込められています。

「富山は米の産地としては有名ですが、野菜の栽培は浸透してきませんでした。それを変えていくべく、imizuttoの立役者である北陸ポートサービスの代表、加治幸大さんが、良樹深根という農業法人を立ち上げ、無農薬野菜の栽培を始めました。地元で採れた安全な野菜を子どもたちに食べさせるために、自分たちで作っている土と肥料を使って、いい野菜とは何か、いい土とは何かを実際に証明しています。その野菜を季節限定フレーバーとしてヴィーガンアイスクリームに加工することで、地元の人はもちろん、東京の人にも富山の野菜の美味しさや価値を発信できます。野菜自体を産地直送するほどの規模ではないけれど、土作り、堆肥づくりからこだわって活動していることをきちんと伝えていくべきだと思っています」と川村さん。

エイタブリッシュ富山店は、新たな食の選択肢としてヴィーガンを提案し、地元に根付いてなかった新しい食文化を伝える食育の場であると同時に、自然と感度の高い人が集まる、最先端の食と文化の発信基地でもあります。食から始まって、その先には、いいデザイン、いいアート、いい洋服とは何か?と文化を学んでいくためのプロローグとして、これから始動するimizuttoの街づくりのイントロダクションとしても機能していくのだそう。次の季節のフレーバーも楽しみですが、これからどんな新しいことが発信されるのかも注目です。

8ablish TOYAMA

富山県射水市海王町1 新湊きっときと市場内
TEL:0766-82-3001
URL:www.8ablish.com/

Photos:Teruaki Kawakami
Text:Masumi Sasaki

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